「最後まで、私は一人か・・・」

最後に残った希望を胸に、安らかに閉じられる目。
その満足そうなジョミーの眠りを見送って。
いつだって、自分が一人だということを思い知らされる。
やっと分かり合えたばかりだったのに。手を取り合えるはずだったのに。
今のこの結果に、後悔はない。自分で選んだ、道。
それは絶対なのだけれど。
けれどまだ、話したいこともたくさんあった。
違う出会い方をしていたら。お互い人類とミュウを束ねるという立場ではなかったら。
きっといい友人になれていたかもしれない。そう思える相手だった。
人類とミュウのこと。サムやスゥエナのこと。シロエやマツカのこと。
・・・そして、ソルジャー・ブルーのことも。

『そうかな?君にはたくさんの、仲間や友人がいたはずだ』
「ソルジャー・ブルー・・・?」
『君は一人じゃない』

目の前には、銀色の髪に赤い瞳。出会った時から変わらない姿。
最期の時まで射抜くような瞳は、逸らされる事はなく。
ミュウの為に、たった一人で飛び込んできたその力が散っていくのを、目の当たりにして。
それからずっと、圧倒的な存在感でこの心を占めていた、前ミュウの長であるソルジャー・ブルーが。
自分には一度も見せたことのない、おそらく仲間にはいつも向けていたのであろう穏やかな微笑みで、見つめていた。
心の奥で。一番求めていた、言葉と共に。
そっと伸ばされた手が、頬に触れる。
つい先ほど、同じようにジョミーに触れられたその場所の体温が。
驚くほどブルーの存在に書き換えられて、戸惑う。

「何故・・・」
『お迎えが、僕ですまないと。謝るべきかな?』
「いや・・・ソルジャー・ブルー。お前でよかった」

するりと出てきた言葉に、見開かれた赤い瞳よりも。きっと自分の方が驚いていた。
思うより先に言葉が出て、頭がうまく追いつかない。
言った方の自分が困ったような表情になったからだろう、子供をあやす様に髪を撫で。

『それなら、よかった』

そう、包み込むように笑った。


けれど次の瞬間には。
微笑に、少しだけ翳りをみせて。その視線が、隣で眠るジョミーへと移った。
触れていた手が自然に離れ、そのまま眠り続けるその額へと乗せられる。
自分から視線が外され、身体の中心がジョミーへ向く。
青いマントが自分の視点の多くを占めて。
ただそれだけのことなのに、ほんの少しの寂しさを感じた。

その行動は、きっと二人の関係を考えると当然のことで。
自分の後を継いだ歳若いソルジャーの死を悼むのは、必然であるとも思えた。
それなのに。なんとなく、二人を見ていられなくて。
反対方向へと視線を泳がす。

『よくやったね、ジョミー。ありがとう』

ずっとずっと焦がれ続けた地球へ。立派に皆を導いて。
思い描いていた、理想の星とは違ったけれど。それでも、だからこそ。
ヒトの未来への第一歩を、希望への架け橋を、こうして手に入れた。
やり遂げたその表情からは、苦しみも不安も感じられず。
明日を描く穏やかな寝顔に、安心したようにかけられる声に。


たまらなくなって。この感情の意味もわからないまま。
動かない身体の力を振り絞り、マントに顔を埋める様にして背後からその身体を抱きしめる。
力の入らない身体では、抱きしめるというよりは、腰に手を回すだけで精一杯ではあったのだけれど。
それでも、どうしてもその身体に触れたくて。
自分だけのものにしておきたくて。

「こちらを・・・」

向いていろ。
そう言おうとして、咄嗟に思いとどまる。
先ほどから、言葉が感情に先行してどんどん漏れ出しているような気がする。
言いたい言葉を、飲み込み続けてきた反動なのか。
残された時間が、少ないからなのか。
それとも、相手がこの男だからなのか。
それさえもわからず、冷静な自分が崩れていくことを自覚しながら。それでも止まらないこの感情に、困惑する。

『キース・アニアン?』

振り返ろうとするブルーに、顔を見せたくなくて。見せられなくて。
顔をさらにその背中に押し付け、動けなくなるなっているその姿に。
くすりと笑みを零して。ブルーはそのまま振り向くことなく、自らの腰に回された手の上に、自分の手を重ねた。

「・・・・・」
『大丈夫だ、僕は君の側にいるよ』

ぎゅっと、握りしめられた手から不安が消えていく。
そして気付いた。
ただ自分は、この男の側に居たいだけなのかもしれない。
実際に会ったのは、ほんの数回。しかも敵として、向かい合っただけだったはずなのに。
ずっと一人だと思っていた、自分の最後に。
来てくれたことがこんなにも嬉しい。
自分を見ていてくれないことが、こんなにも寂しい。
こんな感情が、自分の中にもあって。
それを思わず口にしてしまうほどに。溢れてくる気持ち。
認めたくないような、自由になった今なら認めてもいいような。

「私は、何を・・・」

それでも今までの自分を、すぐに変えられるわけもなく。
それが自分なのだから。変える必要も、ないように思う。
固まって動けないまま、ぽつりとこぼした言葉に。
手を握ったまま、ブルーがゆっくりと振り返る。
正面に戻ってきたその表情は、温かく包み込むような笑顔で。
本当に今まで、苦しそうな表情しか知らなかったことを、思い知る。
こんな笑顔を向けてくれるのは、自分の最期が近いからなのか。
それとも・・・。



『そんなに不安そうな顔を、しなくても大丈夫』
「不安そうになど、していない」
『そうかい?』
「当たり前だ」
『君も、よく頑張ったね』
「ミュウにとっては、そうでない方がよかっただろう?」
『そんなことはない。君がいなければ、ヒトの未来が開けることはなかっただろう』

辛い選択をいくつも強いられてきたはずだ。
言葉を続けて微笑む顔に、ゆっくりと握り締められ握り締めている。離れないその手とは反対の手を伸ばす。
あんなにも長い長い間人類に虐げられ、どんなに歩み寄ろうとしても拒絶されてきた。
きっと一番、人類を憎んでもいいはずのこの男が。
どうしてこんなに、自分のことを理解してくれるのか。
どうしてこんなに、許しを与えてくれるのか。
柔らかな銀色の髪に辿り着いた手に、少しだけ入らない力を込める。
自分の方へ、近づける為に。
抵抗しようと思えば、簡単にできるだけの力。
それでもブルーは、それをしなかった。
それが、答えだ。
導かれるまま、近づいてくる表情は。
まるで駄々っ子をあやす母のようで。すねる弟を抱きしめる兄のようで。
勝てる気がしないのが、悔しい。
けれどきっと、その答えは間違っていない。
だから。
そっと触れるように、そして深く。
優しい言葉を紡ぎ出す唇を、自分のそれで塞いで。
ゆっくりと、瞳を閉じた。




END



【反省文】
反省っていうか、反省しようもない位、もう何もかもがどうしようもない感じに・・・。
何時間も進まない原稿を前にして、固まっていたので。何書いてるかわかんなくなってきた(しっかり)
そして自分でお題振っといて何ですが、なんて書きにくいっ(笑)
出したからには全部入れましたけどね(え!?入ってんの?・・・入ってるのよ!)というか、「地球へ・・・」が書きにくい
(多分あたしの書くカプが、おかしいからだ)
最終回記念(?)という名目でしたので、無理やり最終回から繋げてみました。
いや、でもあれのシーンは絶対、ブルーがジョミーとキースを迎えに来てたと思うですよ!絶対!!(2回言った)
つか、生きてるのキースだけじゃんこの話・・・みたいな(笑)
そんなわけで(どんなわけで?)読んでくださりありがとうございましたでした(もう日本語もおかしい)
【神月霞】