気づいたときには遅かった。 立っていることができず、咄嗟に近くにあった壁に寄りかかる。 「っ・・・・」 無理をしたせいだとわかってはいた。 誰にも内緒で、ここへ来てしまったこと。 偵察ぐらいなら大丈夫だろうと、少しだけ戻った自分の力を過信しすぎていたのかもしれない。 けれど、ここで倒れるわけには行かなかった。 「動いてくれ・・・・っ」 自分の体に、そう命令する。 痛みと目眩と。呼吸すらもまともに行えないほどの消耗に、かなりやばい状況なのだろうと自覚する。 テレパシーを使えば、この距離であってもジョミーであれば気づいてくれるかもしれないが、できるだけ力は温存して おきたかった。 「やはり、無茶だったか」 息を吐きながらの呟き。 戻るにしても、内部に入り込みすぎていて、今はそれだけの力もない。 できることといえば、どこか見つからないところで力を戻すことだが。 角を曲がったところで、その考えすらが甘かったという事実を実感する。 「お前は・・・・・」 「・・・・キース・アニアン・・・」 一番出会いたくない人物。そして・・・もう一度会ってみたかった人物。 驚きを浮かべた彼が、そこにいた。 気配すら気づけないほど消耗しているのかと、思わず自嘲の笑みを浮かべてしまうブルー。 それをどうとったのか、キースの眉が顰められる。 「まさか、こんなところまで侵入してくるとはな」 けれど一瞬でそれは消え去り、次に浮かんだのは不敵な笑みだった。 そして、腰から外されその手に握られる銃。銃口は、迷うことなく自分に向けられていた。 「ソルジャー・ブルー。何をしにきた?」 「君に会いに来た、とでもいえば・・・満足かい?」 なんとか体を支え、小さく笑みを浮かべる。 「敵地に侵入してきた人間に、その質問は愚問だよ。キース・アニアン」 理由など分かりきっているだろう。 なんとか呼吸を整え、そしてしっかりとキースを見つめる。 「メギドの火」 「・・・・・・・」 僅かだが、その言葉に反応があった。 それを確認して、そして溜息をつく。 「まさか、あれをナスカに放つつもりだとは思わなかった。正直、驚いている」 ここで得た情報。 ナスカを脱出したキースが、本国にそれの使用許可を求めていたということ。 もしそれが承認されてしてしまえば、恐らくナスカに抵抗のすべはないだろう。 星を簡単に吹き飛ばすことの出来る代物なのだ。たとえ、今から脱出を指示すれば、なんとかなるかもしれない。 「やめろ、とでも言うのか?」 返されたキースの問い。その顔には、再び彼らしい笑みが浮かんでいた。 「それとも、今からすぐにあの星へ戻り、皆を逃がすか?」 「それが、一番懸命な手段だろう」 けれど、まだ確定ではない情報で、悪戯に皆を怯えさせることもできない。 折角あの星で、地球に代わる星での生活が始まり、皆が懸命に生きようとしているのだ。 「だが、残念だが貴様はここから戻ることはできない」 引き金にかかった指に力が込められるのを見て、それでも何故かブルーの心は落ち着いていた。 それだけの力がないからかもしれないが、抵抗しようという気も、力を使ってキースを攻撃することも、その時は何故か考え付かなかった。 代わりに、浮かんだのはまったく別の思いだった。 「お前に、僕は殺せない」 どうしてそう思ったのか。 けれど、ふとその言葉が頭に浮かんだ。そして、自然に口をついて出ていた。 それだけの力がブルーにはある。けれど、今の彼には、銃弾を防ぐ力はあっても、そのあと逃げるだけの力がない。 それを分かった上での、半分は脅しに近いつもりの言葉だった。 自分のそんな言葉に内心苦笑しつつ、そう思いたいだけなのかもしれないと考える。 けれど、キースの反応は予想外のものだった。 一笑されるか、怒り狂うか、最悪の事態としてはその手に握られている銃の引き金が引かれるか。 そのどれかだろうと思い、心を決めていた。 なのに。 「キース・アニアン・・・・?」 迷い、というのだろうか。彼らしくないように思う表情がそこに浮かび、思わず問い返してしまう。 「黙れ!」 一瞬でそれは消え去り、今度はしっかりと銃が握られる。 撃たれる、と思った。 反射的にシールドを展開させようとしたブルーの体を、銃弾の代わりに襲ったのは激痛だった。 力を使おうとした反動。それが、予想以上の早さでブルーの体へと返ってくる。 「っ・・・・・」 ぐらりと、支えきれなかった体が傾くのを感じる。 (だめだ、ここで倒れては・・・・) 死ぬのかもしれない、と思った。 キースが引き金を引けば、それに抗うだけの力もない今の状態では。 さっきの言葉がはったりだと、きっと不敵な笑みを浮かべて彼は躊躇いなく銃を撃つに違いないと。 そう考えて、目を閉じる。 (ジョミー、ハーレイ、みんな・・・・・) 意識を手放す瞬間、ブルーを襲ったのは銃弾でも冷たい床の感触でもなく、暖かく包み込むような力だった。 何故助けてしまったのか。 けれど、どうしても銃を撃つことができなかった。 顔色の悪さと荒い呼吸から、どれほど体調が悪いかは見て取れた。 倒れようとした彼を見た瞬間、自然と体が動いていた。 「こんな状態で、それでもここまで侵入するとはな」 さすがはソルジャー。ミュウを統率する者だと。 その力は伊達ではないというべきか。 そして、そんな身体を推してでも、情報を得るためにやってきた彼に、少なからず敬服の念を抱いていた。 自室のベッドで眠るブルーを眺め、そして枕元に置いた銃を手に取る。 聞き手で握り、それをブルーへと向ける。 初めて会ったのは、ほんの数日前。伝説とさえ言われた、最強の男。 ただそこにいるだけで、彼がどれほどすごい人物なのかはすぐに分かった。 「今ここでお前を殺せば、今後ミュウたちを一掃するのも楽になりそうだな」 危惧すべきは、彼のみ。 ジョミー・マーキス・シンという、新たなるソルジャーがいることも分かっている。 けれど、それでもブルーの存在ほどは脅威だと思えなかった。 銃を握る手に自然と力がこもる。けれど、引き金にかかった指がそれを引くことはなかった。 そのまま銃を向けて佇むキース。 「・・・・・なぜ撃たない?」 その言葉に、はっと我に返る。 「気が、ついたのか」 赤い瞳が、キースを見ていた。 目を覚ましていたのかと。それを受けて小さく溜息をつき、銃をおろす。 「弱いお前に、興味はない」 自分が恐怖すら感じるほどの存在。 さっき出会った瞬間は、まだそれがあったのだが。 「少しぐらい抵抗してもらわないと、面白くないだろう?」 いつもどおりの笑みを浮かべて答えながらも、それが言い訳だということぐらい、キース自身にも分かっていた。 それも理由としてないわけではないが、もっと別の何かが、キースの手を止めていた。 認めたくない、何かが。 「ここで、僕を殺しておかなかったことを、後悔するかもしれないぞ」 「戯言だな」 ベッドの上に起き上がりながら言うブルーに、笑いながら答える。 「少なくとも、今現在。まだお前の生殺与奪件は私にあるということを忘れるな」 いつでも殺せるのだ。その銃を握って、撃つだけで。 彼の命をどうするかは自分次第だという、それが不思議な感情をキースにもたらしていた。 「一つ聞きたい。・・・・お前は、何者だ?」 ベッドに座り、まっすぐに自分を見てくる赤い瞳を見つめ返す。 あの時のように、心に侵入されるのかと一瞬身構えるが、どうやらそのつもりはないらしいと気づく。 「フィシスと同じ・・・・地球の記憶を抱く者。お前は一体・・・・」 「それをお前に答える必要はない」 何をしているわけでもないのに、全てを見透かされそうなその瞳から、視線をそらす。 その問いに答えることは、キースにもできない。 彼自身にも、過去の記憶が存在しないのだ。あるいは、彼の質問の答えは、その記憶の中にこそあるのかもしれないと、ふと思いつく。 だが、あえてそれは口にはしない。 「お前は、僕たちを殺すのか?」 「・・・・・貴様らは化け物だ」 だから殺す。それこそがグランドマザーの意思で、キースの存在理由でもある。 そこに躊躇いも理由も必要ないのだと。揺らぐことのないその考えを、思いを口にするのはなんとなくだが憚られた。 けれど、それを言った時のブルーがどのような反応を示すのか。それが見たいという思いもあった。 「そうか」 返ってきたのは予想外の言葉だった。 怒るか反論するか、あるいはその理由を追及されるか。どれかだろうと思っていたキースの考えをどれも否定して、ただ 静かに頷いただけのブルー。 「化け物だという自覚はあるということか。結構なことだな」 「・・・・僕たちは、人間だ」 笑いながら言った言葉に、穏やかに微笑いながらブルーが答える。 「多分、言葉では無理なんだろう。分かり合えるなら、こんなことにはなっていないだろうから」 今ある確執。ミュウと人類の対立。 今ここでそれを争ったところで仕方がない。 「どこへ行く?」 ベッドから起き上がり、立ち上がろうとするブルーに、分かりきった質問だと思いながらもそう尋ねていた。 「帰らないと。皆が・・・心配する」 ぐらりと。 急に立ち上がったためか、襲ってくる立ちくらみに耐え切れず体勢を崩す。 「おいっ!」 咄嗟に伸びる手。抱きとめてから、いったい自分は何をしているのだろうと自問自答するキース。 これで二度目だ。 ブルーが倒れようがどうなろうがかまわないはずなのに、どうしても放っておけない。 意思に反して身体が動いてしまう。 「離せ」 先ほどとは違い、少し強めの口調でその腕から身体を起こすブルー。 「僕は敵で・・・化け物なんだろう?」 助ける必要はない、と。 自分が考えたことと発した言葉を口にされ、思わずブルーの身体を離す。 多少ふらつきはするが、それでもなんとかしっかりと立つブルー。 素直に彼の身体を開放したことに、どうやら疑問を覚えたらしいブルーの目が、キースを見る。 「行かせて、くれるのか?」 ここで殺しておかなくていいのかと。 そう言葉に含めて尋ねられ、逃げるように目を伏せる。 「言っただろう。弱い貴様に、興味はないと」 それだけを言い捨てて、そしてブルーに背を向けて歩き出す。 これ以上一緒にいるべきではないと。そう思った。そして、その背に感じる視線を振り払うように、扉に手をかける。 「ソルジャー・ブルー」 「・・・・なんだい?」 振りかずに発した呼びかけに、返される返事。それを聞き、扉に触れる手に力を込める。 「次に会う時は、敵として容赦しない。貴様を殺す。・・・・覚悟しておけ」 返事を聞くつもりはなかった。 そのまま部屋の外へと出て、扉を閉める。 「俺は・・・・・」 閉まった扉によしかかり、大きく溜息をつく。 全て彼の言うとおりだ。何故殺さないのか。どうして助けたのか。そして今、逃がそうとしているのか。 「お前を殺すのは、私だ」 だから死ぬなと。それまで殺されるなと。 浮かんだ思いを打ち消して、キースはその部屋から離れた。 なんとか脱出し、彼がいないことに気づいて迎えに来てくれたジョミーと合流しシャングリラに戻った。 ソルジャーである彼の行動を咎める者はいないが、それでもフィシスの泣き顔とジョミーの怒りにはとりあえず謝っておいた。 メギドが使われるかもしれないという情報。手に入れたそれは、悩んだ結果あえて伏せておくことにした。 ・・・・・そして、キースのことも。 「近いうちに、また会うだろう」 宇宙を眺めながら、そう呟く。 その日は近い。そして、思った。 その時こそが自分にとっての、最後の戦いとなるだろうということを。 ----------------------- あ・・・反省も感想もくそもありません。なんと言うか、全部消去して書き直したいような感でいっぱいです(笑 でも消したら二度とこいつらは書けない自信があるので消せない・・・・。 目覚めてから、メギドが発されるまでの間のお話を捏造してみました。 とりあえずやりたかったのは以下の3つ。 1:倒れるブルーを抱きとめるキース 2:「お前に僕は殺せない」 3:「お前を殺すのは私だ」 そのためにものすごく時間を費やしました・・・いや、マジで。 本当は、エロを書けという相方の指令だったんですが・・・想像はできても話が作れずスイマセン。(相方へ) けどこんなにも苦労するとは・・・・二度と書きたくないです、キース×ブルー(笑) ちなみに両方の視点で書きましたが、その視点の間。 あそこでキースはお姫様抱っこで自分の部屋まで連れて行ってます、きっと(爆) 【藤崎香音】