初めて出会ったあの瞬間から。 初めて対峙したあの瞬間から。 いつまでもいつまでも、頭から離れない。 彼の消え入りそうで、けれど強い。 あの赤い瞳。 透き通るような薄い色素に、そこだけがあまりにも鮮やかで。 危険だと思うのに、目が離せなかった。 時が止まったかのように、自分の身体は動かなくて。 マザー・イライザに選ばれた、メンバーズである私に初めて恐怖と敗北感を抱かせた男。 ソルジャーブルー、オリジン。 誰に聞くまでもなく、何故か彼の事はすぐにわかった。 遠い昔から生きるミュウの長、強大な力を持つソルジャー。 その知識は確かにあったけれど。 その姿を見たことはなかったはずなのに、彼を一目見た瞬間。 あぁ、この男がソルジャーブルーなのだと。確信を得ている自分がいた。 しかしいくら彼が伝説のソルジャーなのだとしても、消え入りそうな弱々しい生命力しか持たない彼のことを、 どうしてあんなにも恐れる必要があったのか。 握り締めれば折れそうな腕も。緩やかに流れる銀の髪も。自分よりも頭一つ分低い身長も。 今思い返せば、恐れる要素は一つもなくて。 ミュウの力を侮っているわけではない。むしろ誰よりもその力の大きさや危険性を理解している自負もある。 だが、あんなにも恐れる必要がある相手だっただろうか。 囚われの身だったことが、感情を増長したとでも? 私に限って、そんなことはありえない。そのことに関しては自信がある。 だからこそ未だに自分のこの感情の意味が理解できない。 あの歳若い、新しいミュウの長ジョミー・マーキス・シンの方が、確実に力溢れていたのに。 彼には感じなかった、恐怖と敗北感を叩きつけられたのはきっと。 一瞬にして心の中に入り込まれたからだ。 油断していたわけではない。むしろいつもより警戒していたその私に。 彼はいともたやすく入り込んできた。 あの女がいなければ、きっと私はここにはいない。 誰よりも心のガードに長けている私の、それに入り込んできただけではなく、いつまで経っても消えていかない。 「くそっ」 思わず声に出た言葉。 八つ当たりだとはわかっていたが、目の前に無機質に存在するテーブルを蹴り上げて、ベッドに倒れこんだ。 整えられたシーツに身を沈めて、真っ白な天井を見上げる。 不安定な感情に捕らわれていても、マザー・イライザからの呼び出しはない。 アタラクシアにいたあの頃のように、マザーは頻繁に私を呼び出すことはなくなった。 それは私の事を認めてくれているからだと、わかってはいるが。 この感情を忘れさせてくれればどんなに楽だろう。 何故・・・。 もやもやとした気分のまま、目を閉じたその髪に何かが触れる。 睡眠状態に入るか入らないか。 そんな曖昧な時間。 この私が寝室に侵入者を許すわけがないのだから、これはきっと夢なのだろうとそのまま触れてくる優しさに身を 任せる。 もしかしたら、マザーがこの混乱した精神を沈めに来てくれたのかもしれない。 そういえば、あの女。 マザーに似ていた・・・。 「フィシスが、君のマザーに似てる?」 「・・・っ!」 突然降りかかってきた言葉に、驚いて急激に覚醒する。 目の開けたその場所には、引き込まれるような赤い瞳。 「お目覚めかい?」 「ソルジャー・・・ブルー」 そこにいたのは、紛れもなくあの男で。 慌てて身体を起こそうとしたが、それは叶わなかった。 触れられたままの髪に乗せられている手と肩に置かれたもう一方の手が、そんなに力を持っていると思えないのに。 その手は、押さえつけられているというより、ただ添えられているというだけのはずなのに。 自分の身体ではないみたいに、動かない。 けれど今日は、この間のような恐怖を感じていないような気がする。 この強い赤の瞳から、目が離せないのは以前と変わらないけれど。 「君の中の地球は、美しいね」 「・・・なんだと?」 「フィシスと同じ記憶、同じ地球だ」 そうつぶやいて。ほんの少しだけ、悲しそうに揺れる瞳。 そして気付いた。 この目の前にいる男が、実体ではない事に。 よく見れば、身体が透けている。精神体とでも呼べばいいのだろうか。 なのに、触れられている感触がある。 そしてきっと、この状態で私の心に侵入してきたのだ。 「化け物め」 「お互い様だろう?君の方こそ人間とは思えない力の持ち主だ」 「一緒にするな」 「一緒だよ、僕たちはどこも変わらない」 ただ、共に穏やかに地球で暮らしたいだけだ。 そう語る目の前の男は、こんなにすぐ側にいるのに私を見ていなくて。 遠い地球へ思いを馳せ、仲間達のことを大切にする気持ちばかりが伝わってきて。 何故かその事に、無性に腹が立った。 自分を見て欲しくて、思うよりも先に身体が動く。 触れられていない方の腕は自由で、起き上がれないだけで動かせないわけではない。 その手を伸ばして銀色の髪を乱暴に引っ張る。 突然の行動に対処が遅れたのか、驚いたような表情が引っ張られるまま近づいてくる。 迫ってくるその唇に自分のそれを重ねて。 精神体でも、ちゃんとやわらかい感覚がするのだなと。そんなことを思いながら。 見開かれた赤い瞳が、その瞬間だけは自分のものになったことに、思わず笑みがこぼれる。 「ブルー」 「っ・・・!」 名前を呼んで、更に深く引き寄せようとしたが。 その前に引き剥がされて、そしてその姿は目の前から消失する。 最後に見たその表情は、精神体だというのにまるで生身の人間のようで。 驚きと不安と羞恥が交じり合ったような不思議なもの。 けれどそこに、嫌悪感がなかったことに安堵して。 唐突に理解した。 訓練を重ねた自分が決して感じないはずの恐れという感情の意味。 出合った時から消えない想い。 捕らわれるのを恐れたのだ。あの瞳に。 でもそれはすでに遅く。出合った時には捕らわれていた。 だからこそ、心への侵入を許してしまったのだ。 きっと、今も。そしてこれからも。 回避できないだろう。 完璧であらねばならない私にとって、一番危険な存在で。 一番大切な部分に存在する。 どんなものにも執着できない私には、絶対に存在しない。してはならない存在。 よりにもよって、ミュウの。しかもその長であった男がそうなるなんて。 それなのに、その事実を嫌だと思っていない自分を自分で笑って。 身を起こして窓の外に広がる宇宙を見る。 もう一度会える。そんな予感がする。 それがきっと、最後になるだろうことはわかっていたけれど。 この手で葬ることこそが、定めなのだ。 最後にあの赤い瞳が映すのは、焦がれた地球でも、守るべき仲間たちでもなく。 私であるために。 END 【反省文】 うわ、もうなんかどうしよう(笑) てことで、初「地球へ・・・」そして青水晶初の裏(黒水晶)がこれでいいのか。 超マイナーカプですいまっせん。ジョミーでもましてやハーレイでもなく、キースて!原作じゃあ絡みもしないカプだよ。 どうせあたしの好きなカプはいつもなんかマイナースタートを切るので、諦めてますけど。 いつかメジャーになるはずよ!(ならないだろう・・・これは) あたし、ものっすごくブルーが好きなのに。思いっきりキース目線です。 しかも大分一人で暴走しちゃってる感じの話に・・・ブルーびっくりしただけじゃん。おかしいな? しかも香音ちゃんには、ブルー視点で!とか注文付けておきながら、自分は攻視点かよ!みたいなことになってます・・・。 しかも最初、攻受逆かと思いませんでした? 書いてたあたしが思った。これ、このままキース襲われちゃうんじゃないかって(笑) ちゃんと逆転してよかったです。ブルーは愛されてこそです(語り出した) ではでは、お付き合いありがとうでした! 【神月霞】