「……ちっ、ここもハズレか」

くるくると。この山奥にある人里離れた村の『ご神物』らしい短剣を。
まるで、がらくたを扱うように、手の内でもて余す。
そう簡単に目的のモノが見つかるとは思ってはいないが。
ここまで何の手懸かりどころか、僅かな影すらも見つけることが出来ないとなると。
ため息位は、盛大につきたくなるというものだ。

「ジルくん、あった〜?」
「わ、馬鹿。まだ入って……っ」

来るな、と言う前に。
小さな身体が、するりと神物が飾られていた、罠だらけの空間に入り込んできた。
と思ったと同時に。
『カチッ』と明らかに何か嬉しくない状況を巻き起こす為の、スイッチが入った音がする。

「……げ」

途端に、天井がパラパラと崩れ落ちてくる音が耳に入って来た。
瞬間的に駆け出し。
ニコニコと笑顔で小首を傾げている、罠を発動させた原因である少女を抱きかかえ、そのまま脇目もふらず出口を目指す。

「ねぇ、ジルくんったら。見つかった〜?」

『ジルくん』こと、ジルトの小脇にすっぽりと納まったまま。
今の状況をわかっているのかいないのか、のんきな声が発せられる。
こんな時でなければ、間違いなく可愛いらしいだろうし。頭の一つでも撫でて笑ってやるところだろうが。
生憎、今は完全にそういう場合ではなかった。


彼女の名前は、シエラレオネ。
まだ10歳の少女ではあるが。数ヶ月前から、何故かジルトの相棒という位置に納まっている。

「持ってろ」

答える変わりに、握り締めたまま出てきてしまった、短剣をポイッと投げ渡す。
シエラレオネはそれを、落とさないように慌てて受け取り。
駆け抜けて行くすぐ後ろまで崩壊が迫っていることを、全く気にする様子もなく、それをしげしげと眺めている。

「また、ハズレ?」
「……の、ようだな」

出口の光を視界に捉え、ため息混じりに頷き。
その光の先へ滑り出ると同時に、恐らく村の聖域であったのだろうご神物の奉られた洞窟は、無惨に崩れ落ちた。
シエラレオネを地上に下ろし、ゆっくりと青い空を仰ぎ見る。
真っ暗な洞窟から脱け出したばかりの瞳が、その光に慣れ始めた頃。
タイミングを図ったように、小さな身体がジルトの両足に絡み付いた。
その気配に視線を落とすと、じっと心配そうに見上げてくる大きな瞳とぶつかる。

「大丈夫?」
「……あぁ、平気だよ。さんきゅ」

膝を落として、シエラレオネと同じ高さに視線を合わせ。ぽんっと頭に手を乗せ、笑いかけると。
やっと安心したように、にっこりと笑顔を見せてくれた。
毎回、この小さな少女に慰められ励まされているな、と苦笑を漏らしたジルトの目の前に、豪華ではないが洗礼された
短剣が差し出される。

「これ、どうする〜?」
「そうだな……」

ご神物らしいし、自分の目的物ではかったから、村に返しても構わないのだが……。
何となく、これはシエラレオネの近くにあった方が良いような気がした。

「貰っておくか」
「うん!」
「よし。じゃあ気を取り直して、次に行くか」

大きく頷くシエラレオネの頭を再びぽんっと撫で、立ち上がる。
地図を広げ、方位を確かめ、歩き出したジルトの後ろを。
何の疑いも迷いなくくっついてくるシエラレオネを、背後に感じながら。
逸る気持ちを抑えながら、ジルトは歩調を緩め。次の目的地へと、頭を切り替えた。