目の前に現れた、二つの選択肢。

どちらを選べば、幸せな明日が来るか。本当は、わかっていたのに。

それでも、この手は。

絶望へのそれを、選んだ。

そしてこれからもずっと、選び続けるだろう。

 

 

青空から、粉雪が舞う。

こんなにも気持ちよく晴れているのに、誰もいない街。

白く染まるわけでもなく、ただただ冷たい雫と風に侵されていく領域。

優しさの欠片さえも、感じることができず。

すべてのものが、自分を否定してくる感覚。

それは、自分の門出にとても相応しい様に思えた。

自分が自分でなくなっていく。

見失うのとは違う、それは新たな誕生とでも言えるべき、確かな出発の時。

誰もが、この選択を哀れむだろう。

きっと、ずっと「護りたかった人」も。この道を行くことを、望んでいないことだって、どこかではわかっている。

それでも、止められない。

弱い心を凌駕するほどの、強い意志が。頭の中で叫ぶ。

救いのない、この世界への。

復讐を。

「ヴィファーザ様、何をお考えで?」

玉座で退屈そうに遠くを見つめる闇の王に、問いかければ。

答えの代わりに目の前に差し出されたのは、深い赤の液体が揺れるグラス。

まるで血のようなワインの向こう側に、何が見えているのか。

自分の主人である彼が、何を想い、何を考えているのか。

それを推し量ることは出来ない。

人を、街を、世界を滅びに導くたび。その表情に見せる悦びと悲しみの片鱗は。

まるで終りの日を待ち望んでいるようにさえ、思える時がある。

傍に仕えることを望み、それを許して下さった。あの瞬間の表情が、忘れられない。

堕ちた自分にではなく、彼自身へ向けられた自嘲の笑み。

大切に育ててきた姫君さえも裏切って、それでも彼に付いたのは。

もしかしたら、この危うさをどうにかしたいと、感じたからかもしれない。

けれど彼の闇は深くて。深すぎて。

気持ちとは裏腹に。自分がどうこうできるものではないことも、最初からわかっていた。

それでも傍にいることで、何かの役には立てるかもしれない。

ただの道具でいい、彼が不要だと思った瞬間に捨てられる存在でいい。

あの笑みは。そう思える何かが、確かに生まれた瞬間だった。

 

「光を、見た」

「光、ですか……?」

「絶望という闇に堕として、息絶えていく姿を見たくなるような」

「そうで、ございますか」

「あれは、一体どちらの選択肢を選ぶだろうな」

口元に現れた、歓喜の笑みが。

その光に対してではなく。まるでどこか、彼自身に対して向けられているかのような錯覚に陥る。

そう。自分を受け入れて下さったあの時と、同じように。

きっと彼は過去に、何かを選んだのだろう。

その「光」とやらに、迫っているものと同じ選択肢の。一つを。

そして、もしかしたら。

違う選択肢が紡ぎだす未来を、望んでいるのかもしれない。

「楽しみで、ございますね」

「あぁ。しばらくは退屈しなくてすみそうだ」

「……はい」

やっと、差し出されたグラスに手を伸ばす。

受け取ると同時に揺れた赤は、これから流れる絶望を表しているようで。

気付かれないように、そっと目を伏せる。

彼に付いた、あの時の自分の選択肢が。決して間違っていたとは思わない。

今更後悔もない。そしてこれからもきっと。

けれど、ほんの少しだけ。思うのだ。

あの時、他の選択をしていたら、と……。

そこがお前の弱いところだと、彼は笑うだろうけれど。

「憐れな光に、祝杯を」

「我が主に、闇の祝福を」

グラスを重ね合わせ、ガラスの音が響く広い空間で。

揺るがない意思を宿した、彼の瞳を胸に刻み。

深い絶望を飲み干した。

 

END

 

【反省文 By霞】
つーことで、2周年記念作品だというのに。
びっくりですね。むしろもう諦めましたね。
でも、とりあえず言っとこうかな……「暗っ!」
お題をもらってから、うんうん考えた末。
3つを掛け合わせて、思いついたのが魔王的な話だったので(もうそこがオカシイ。
テーマは明るめのはず)

それならせっかくだし、ファーさんのお話にしてしまおう!と(笑)
ほら、確か1周年の時もあたし本編ラストとかそういう感じだった気もするし……。
記念作品ぽく(新しい魔王設定を考えるのが面倒だったなんてことはナイですよ。ナイですってば)

ということで、お付き合いありがとうございましたー!(逃げた)