牢獄の中。

そこには、乾いた空気と冷たい風が吹きぬけ。

「寒い」と表現するには、あまりにも無機質で。

それを言葉に例えるなら「痛い」が適切であるといえた。

温かい光などは、見えるはずもなく。

ただただひたすらに、時を刻む。

与えられる衣服や食事は生かすためのものではなく、死なせない為。

ここでは、生きることも死ぬことも許されない。

もうどのくらい、空の青を見ていないだろう。

もうどのくらい、大地の茶を踏みしめていないだろう。

繰り返す、コンクリートで囲まれた灰色の箱の中。殺戮の日々。

心を凍らせ、何も考えず生きることが一番楽だと気付いたのは。

希望を持たず、諦めることが一番楽だと気付いたのは。

天に祈らなくなったのは、いつ頃だっただろうか。

それでも、ただ。いつかの為に。

 

 

「出ろ」

無機質な空間に、無機質な声が響く。

ここの住人は、機械仕掛けなのではないかと思えるほど。それには感情が灯らない。

牢獄の錠が外される音。

それは、この身を自由に動かせる時間の始まりであり。

この身が自分の為にないことを、思い知らされる合図でもあった。

導かれるままに、牢獄の小さな出入口へ身体を通す。

振り向きもせず、かつんかつんと音を立てながら、前を進む黒い制服の男。

腰から剣を奪って斬りつけ、この世界から逃げ出そうと思考を巡らせていたのは、どれ位前のことだろう。

実際、行動に移した事もあったが。そこには絶望しかなかった。

やがて、一筋の光に辿り着く。

男は立ち止まり、先を促す。促されるままに足を止めることなく、男の横をすり抜けて、その光の先に進む。

光の先は、決して明るい未来ではなく。地獄への一歩だとわかっていても。

立ち止まることは許されない。

光差すゲートをくぐった瞬間、後ろで聞きなれた鉄の降りる音が響く。

牢獄から別の牢獄へ。ただ移されただけのことだ。

 

 

移された牢獄は、だだっ広い灰色の闘技場。

コンクリートで囲まれた、逃げ場のない戦いの場。

見上げた先には、いくつかのガラス張りの窓と。自分を見下す、気味悪く笑う金の亡者達。

ここが、自分の生きる場所。生かされているだけの、場所。

下ろされた鉄の楔の間から、一本の剣が差し入れられ。

重たい身体でそれを取り上げると同時に、入ってきた場所と正反対に位置する牢獄が、ゆっくりと開く。

現れたのは、自分よりも3倍はある獣。この牢獄の中で、研究されているキメラ。

最初の頃は、狼ほどの大きさだったそれは。

日に日に改良され、化け物に変わっていく。

まるで、自分を見ているようで。目を逸らしたくて堪らない。

 

 

「始めろ」

上から降りてくる言葉は、やはり無機質で。

自分の存在さえも、機械仕掛けなのかもしれない。そんなことさえ思う。

そう考えてしまうこと自体が、自分の中にまだ血が流れている事実を表しているのだけれど。

言葉を合図に、作られた哀れな化け物が、容赦なく襲い掛かってくる。

自分の血がこの灰色の箱の中を染める事を、「今日こそは」と期待するゲスト達の視線を感じながら。

ただただ、剣を振り回す。

自らに植えついた型を、出来るだけ壊すように。ただがむしゃらに。

こんな場所で、受け継いだ神聖なる剣技を使いたくない。

それでも、染み付いてしまった癖はなかなか消えてくれなくて。相手が強くなっていくほどに、それは難しくなる。

自分のそんな苦悩する姿を見て、あの頭上にいる悪魔が、楽しんでいることはわかっていた。

大切な人から継承した技を、人を護る為の剣を。

あいつらの前で、あいつらを楽しませる為だけのこの場所で、使うわけにはいかない。

それで勝ち続けたとしても。きっと、誰も喜ばない。

だけど。

最後の最後。いつかのその日には、「護る為に」その剣を使おうと決めていた。

 

 

自分が、この場所に立つことで。自分が、哀れな化け物に勝ち続けることで。

護れる人がいる。

反対に言えば、自分が力尽きる時が。その人を失う時。

そんな風に、護って欲しくなどない。

きっとあの人なら、そう言うだろう。

だから、これは自分の我が儘なのだ。一方的に護るという行動は、ただ縛り付けるだけのものでしかない。

それでも。

この牢獄の中で、戦い続け。勝ち続けることでしか、護れないのなら。

止めるわけにはいかない。

だたの自己満足でも。それを誰も望んでいなくても。

あの悪魔の謀略に、乗せられているだけなのだとしても。

この命、尽きる瞬間まで。

もう二度と、空の青を見ることができないだろう。

もう二度と、大地の茶を踏みしめることは叶わないだろう。

けれど、あの人を護れるならそれでいい。

それがいい。

最後のチャンスを逃さないように、十分に用意して。

自分の命と、継承した技とを引き換えに。この場所をぶち壊す、その日の為に。

悪魔の笑顔と、ゲストのため息を頭上に感じながら。

今はただ、この灰色の箱の中を。

赤に染める。

 

 

 

END

 

 

【Reflection】
たまには明るい話を書けないんでしょうか、あたしは。最近ちょっと諦め気味(笑)
しかも今回、主人公ひとっこともしゃべってねぇ。むしろ「」がほとんどねぇ!!
絶対コレで、暗さに拍車がかかってる気がする。悶々と考えてるだけの話だからね。
しかも、何も解決してないからね。

剣闘士の話を書こう!と思った時点で。何かおかしかったんだ・・・。
せめてこう、騎士とかの話にすれば光が見えたはずなんだ・・・と思って、途中で何やらそんな騎士的剣技を
習得しているっぽい感じにしたんですが、今更でした・・・無理でした(おい)

次こそは、馬鹿みたいに明るい話にもっていけるように、もうちょっと足掻いてみたいと思います(笑)
ではでは、お付き合いありがとうございました〜。