花のような笑顔を求めて。

どんなに優しく接しても。どんな贈り物をしても。

この愛は、届かない。

それは間違いなく、自分のせいで。

開放こそが、最良の解決策であることもわかっているけれど。

どうしても、手放せない。手放したくない。

一方的なこの思いが。どんなに彼女を苦しめることになったとしても。

手に入れた途端に、手に入れたかったモノを失う。

それが、自分が仕掛けた罠の代償だった。

それでも、伸ばさずにはいられない。たとえ取ってもらえなくても。

手を。

 

 

  むかしむかし、あるところに。

  ひとりの美しいお姫様がいました。

  誰からも愛され、可愛がられて育ったお姫様。

  けれど、お姫様はお城から出ることを禁じられていました。

  なぜなら、お姫様が生まれた夜。

  恐ろしい魔法使いによって、お姫様は呪いをかけられてしまったからです。

  お城から出れば、その瞳は二度と開かれることはなくなるだろう。と。

  その呪いから救えるのは、隣国の王子様だけだと魔法使いは言いました。

  王様とお妃様は、必死に隣国に頼み。

  王子様をお姫様の婚約者にしました。

  お姫様は、王子様と会ったことはありませんでしたが。

  いつか会えるその時を、とても楽しみにしていました。

  

  ある雨の夜。

  お姫様は、お城の庭で雨に濡れて震えていた、一匹の猫を見つけます。

  可哀想に思ったお姫様は、その猫を助けるために。

  約束を破って、お城の外にある庭へ降りていきました。

  ずぶ濡れになっていた、金色の美しい眼をした黒猫を。

  お姫様は抱き上げようとしました。

  その途端。

  激しい雷がお姫様を襲い。

  お姫様は長い長い眠りについてしまいました。

  みんなが何をしても目覚めることはなく。

  王様やお妃様。国中のみんなが悲しみに明け暮れていた時。

  お姫様の婚約者である王子様が、お城を訪ねてきました。

  お姫様が眠りについてしまった事を知った王子様は、悲しみに涙しながら。

  眠るお姫様に、キスをしました。

  

  するとなんということでしょう!

  お姫様が目を覚ましたではありませんか。

  王様とお妃様は大喜び。

  お姫様はひと目で、王子様を好きになりました。

  王子様とお姫様は、結婚式を挙げ。

  二人はいつまでも幸せに暮らしました。

  めでたしめでたし。

 

 

むかしむかし、あるところに・・・。

こうして始まるお伽噺は、いつだって。

ハッピーエンドとバットエンドを往復してる。

何の疑問も持たず。ただただ物語を享受してきた、幼いお姫様はもういない。

だから。

幸せな結末の下に隠れる、悲しみの雫が。

こんなにも痛い。

 

「お妃様、こんなところにいらしたんですか」

広い庭の片隅で、隠れるようにうずくまるその姿を見つけて。

侍女が呆れたように声をかける。

城にやってきた頃の、まわりまでもを明るくする。美しい笑顔が消えたのはいつのことだっただろうか。

先王が逝去され、後を継いだ今王は民の評判もよく。

漆黒の髪に、金色の瞳。

吸い込まれるほど見目麗しいその王に、愛されているはずの幸せな王妃は。

こうしていつも、どこかへ逃げ回るように身を潜めている。

「捜さないでと、いつも言っているでしょう」

泣き出しそうな表情で訴えるその腕を、そっと取って立ち上がらせる。

「王がお捜しです。お部屋へお戻りくださいませ」

「ほっておいてちょうだい」

「そうは参りません。今日は雨もふりだしそうです、さぁお早く」

「嫌です」

子供のように被りを振る妃の姿に、困惑する侍女の横に。

突然、黒い影が現れた。

恐縮する侍女を手で追い払って、そっと妃に近づく。

うつむくその肩にゆっくり手を乗せると、びくりと震える。

「その反応は、傷つくな」

「あ、ご、ごめんなさい・・・」

謝るその声から、恐怖が消えることはない。

 

侍女と自分の目の前に突然現れた、黒い影。

漆黒の髪に金の瞳の、その人は。

王で。愛する人で。

そして、本当はこの世で一番恐ろしい人。

雷に打たれたあの雨の夜。

助けようとした金の瞳の黒猫で。呪いをかけた魔法使い。

それが王子様の正体。

気付いたのは、このお城に来てから少し経った。

そう、あの夜と同じ様な雨の日。

この遠い城の中で、いるはずのないあの時の黒猫を見かけて。

思わず追いかけた。

黒猫の向かった先は、王の部屋で。

導かれるように入ったその部屋に、黒猫はいなかった。

「待っていたよ」

微笑むその人が。急に別人に見えた。

問いただす言葉を、否定しなかった。

逃げるように部屋を出て。

それから、王の瞳を見れなくなった。

 

この手を取ってしまったら。

きっと最後の罠に落ちる。

最初からすべて仕組まれた、物語の終幕。

巻き戻すことはできないなら、時を止めるように。逃げ回ってはみたけれど。

本当はわかっていた。

逃げられない。

二人の上に、雨の雫が振りそそぐ。

冷たさに顔を上げて、久しぶりに王の顔を正面から見つめる。

闇に溶け込むその姿。

金色の瞳が、稲妻のようで。

あの日以来、恐ろしくて仕方のないはずの雷。

それなのに、いつも目を逸らせなかった。

だから、この瞳も。

恐ろしくて恐ろしくてたまらないのに。

ひと目会った時からずっと。

愛してる。

だから。ゆっくりと、伸ばした。

手を。

 

 

 

END

 

 

【反省文】
御伽噺を書こう!
突然思い立って進めていくと、どんどん御伽噺から遠ざかる暗さに・・・つーか、このお題で御伽噺を書こうって
思う発想が、もう暗くなるの前提だよ!みたいな・・・もぉどうしたら(笑)

途中でなんか、いろんなものを諦めました。
ほんわかファンタジーなんて書けねぇんだよ、あたしには(開き直った)

それでも、あたしには珍しくかなりの(?)ラブストーリーです。
しかもハッピーエンドですからね、コレ(えぇ!?)

お付き合い、ありがとうございました〜。