力が大きければ大きいほど、それを扱う者の力も、比例して大きくなくてはならない。

分相応な力を扱うという事は、その身の破滅を意味している。

強すぎる力。

飲まれてしまう体と心。

そうなってしまった者に、もはや元の人格というものは存在しない。

ラセットから溢れ出した闇の力。

その力の中心にいるラセットの瞳は、すでに先刻までのそれとは違うものと化していた。

力を操っているのではない、力に操られている。

「ルーシリア!」

何故、そう思ったのかは分からない。

けれど、とっさの判断で、立ち尽くしているルーシリアへと手を伸ばす。

ほぼ同時に、ラセットを包み込んでいた闇の力が、意思を持った生き物のように二人に襲いかかる。

今、戦力を分散するわけには行かない。離れ離れになるわけにはいかない。

杖を握るルーシリアの腕を掴んで、自分の胸へと引き寄せる。

瞬間。

闇が二人を、その場を包み込んだ。

 

 

「大丈夫か?」

「・・・・・ええ」

そんなに大きな声を発しているつもりは無いのに、不思議なほど響いて聞こえるのはその空間のせいだろう。

真っ暗闇。深淵というのがふさわしいだろうか。

音も光も、何も見えず、何も聞こえない。

ただ、抱きしめているルーシリアが、抱きしめられているアディスのぬくもりだけが、今が現実であるという

事を示していた。

互いの姿すら見えない、闇。

「ラセットは、どうなったのかしら」

意外としっかりした声音にほっとするアディス。

「どうだろうな」

曖昧な返答。

けれど、それでルーシリア自身も分かっているのだろう。

闇に飲まれた人間。

『あいつ』の力に飲まれた人間が、どうなったのかなどいまさら確認する事ではないのだと。

「とりあえず、離れるなよ」

「分かってるわ」

そっと、アディスの体から身を起こし、その手を握り締めるルーシリア。

暗闇の中でも、なんとなくだが分かった。

きっと、いつもの笑みを浮かべているのだろうと。

「とりあえず問題は、この闇をどうするかだが・・・・」

『ここまでたどり着くとはな』

闇の中、聞き覚えのある声が響く。

たったそれだけ。気配も何も感じない、暗闇の中響いたその声だけで、二人の動きを止めてしまう。

つないだ手が、より強く握られるのを感じ、思わずくじけそうになる体を、心を奮い立たせる。

「姿を現せ!」

暗闇に響くアディスの声。その声に帰ってきたのは、楽しそうな笑い声だった。

『たどり着いてみせよ、私の元へ。全てを取り返したいのだろう?全てを、終わらせたいのだろう?』

それを発している彼の、表情も仕草も、容易に浮かび上がる。

そして、ふと思う。

この闇の中では、すぐ近くにいても気づけないだろうと。

彼の特徴は漆黒の髪と紫の瞳。おそらく、いつものように身にまとう衣服も黒で固めているのだろう。

闇に溶け込みそうな男。だからこそ、すぐそこにいるかもしれないという恐怖へと繋がる。

『ならば、私をみつけるがいい。私は、逃げも隠れもしない。ここで、お前達が来るのを待っている』

ふっと、その言葉を最後に気配が遠のくのを感じる。

それだけで、

「術を、破れということか・・・・」

ちっと舌打ちをしてつぶやいたアディス。そして、横にいるであろうルーシリアを見る。

「この空間、抜け出せるか?」

「術、だとしたら破る事は出来ると思うけど・・・時間がかかりそう。もう少し、ここがどういう空間なのか

調べてみたい」

「・・・・分かった」

ルーシリアの言葉は最もだろうとうなずく。

とはいっても、この暗闇で、いったい何を同調べればいいというのか。

思わずうなずいたものの、途方にくれてしまうアディス。

「とりあえず、少し動いてみましょう。大丈夫よ、絶対に離れないから。一緒なら、怖く無いでしょう?」

悩んでいるアディスの、その悩みを吹っ切るような明るいルーシリアの声。

それが、たとえ恐怖の裏返しだとしても、無理をしているのだとしても。

ここでアディスが迷うわけには行かないのだと教えてくれる。

「・・・・・ああ、そうだな」

進まなければ始まらないのだ。

ならば、とりあえず進んでみる。

今まで二人がそうしてきたように。




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