この男、本当に見た目通りの年齢なのか。

筆頭執政官だと、馬鹿を言うな。

むしろ武官だろう・・・と、舌打ちしたくなるほどの力と速度。無駄のない動き。

達人技とでも称しても過大評価ではない、剣さばき。

自分の身の丈にあった武器を知っているからこその、小剣2刀なのだと思い知らされる。

頬をかすめる剣先からほとばしる魔力は、その小剣が魔法剣だということを示していて。

ルーシリアの放つ魔法さえも弾き飛ばすその込められた魔力の強さに。

さすがは魔法国レシャルトの公民だと感心している自分に苦笑する。

「戦いの最中、考え事ですか。余裕でございますね」

「アディス!」

その声と共に、小剣がアディスの目前に迫る。

ルーシリアの叫びを受けて、がきんっと、剣の背で慌てて受け止め。

そして気付く。

その小剣を持つ両手の甲に刻まれた、痕に。

自ら力を望んだ者。気まぐれに分け与えられた者。

理由は違えども、あいつの力を受け入れた。もしくは押し込まれた者に現れる痕。

ここへ辿り着くまでの旅路の中、今までにも幾度となく見てきた。

あいつの力を受け止めきれない器の末路を。

多分、ルーシリアとの会話を聞く限り。このラセットという老人は前者なのだとは思う。

きっと自ら、力を欲したのだろうと。あいつに加担したのだろうと。

それに至った経緯など、アディスにわかるはずもない。

もしかしたらルーシリアには、その欠片が見えているのかもしれないけれど。

それでもきっと、真実は彼だけのものなのだ。

そしてこれまでに出会ったどんな敵よりも、あいつに与えられた力を使いこなしているからこそ。

厄介な相手だった。

器の潜在能力を出し切って暴走する力。

それはやがて器を飲み込み、最大限に引き出された能力と共にあいつの中に還る。

この場でこの男を倒せば、きっとその力はあいつの力となる。

だからといって、倒さないわけにはいかない。この場を明け渡す気がラセットにないことは明白なのだから。

「ルーシリア、行くぞ」

行けるか?という問いではなく。

行けると確信した上での、ただの確認作業。

そして彼女からの返事がないことが、了解の意味をさす。

後は呪文の完成を待つだけの状態だということだ。

きっとルーシリアなら、アディスの視線の先に気付いたはずで。

例え許すことの出来ない何かがあったのだとしても、断ち切らねばならない過去なのだとしても。

ルーシリアの性格からしてこの老人を討つことは、きっと本意ではないだろうことはわかっていたけれど。

それでもルーシリアにとって、辛い選択しか選ばせてあげられない。

せめて、止めは彼女の手で。

やがて、とんっと杖が大地を打つ音が聞こえる。

それがいつもの合図。

剣から力を抜いて、小剣2刀を横へ流す。

同時に自分から後ろへ倒れこむ。

急に力を抜かれ、バランスを崩すラセット。

アディスの消えた目前には巨大な炎と、泣き出しそうなルーシリアの顔。

けれど彼女は迷うことなくその言葉を口にした。

『炎よ、燃え盛る弾丸となりて敵を撃て』

かざす杖の先から、いくつもの炎の球が発せられアディスの上を通り抜ける。

先ほどまでアディスに向けられていた小剣を防御に回す余裕が出来る前に、それは真っ直ぐにラセットを襲う。

その攻撃を受けるまでの一瞬の間に、ラセットがかすかに微笑むのをアディスは見た。

次の瞬間には、ものすごい勢いで吹き飛ばされるラセットの姿。

身を起こして、立ち上がるアディスの横にルーシリアが並ぶ。

その攻撃は確実にラセットを捕らえたことを確信していて。

それでもなお警戒を解こうとしないのはこれから起こる力の暴走を予感しているから。

「ラセット・・・」

わずかに震えている声。きつくかみ締められた唇。

アディスが声をかけようと、口を開きかけた途端。

ゆっくりと立ち上がったラセットから、巨大な闇の力が溢れ出した。




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