『隠された聖地』。何故そこにその名がつけられているのかは分からない。

「皮肉か、それとも・・・本当に聖地なのか」

自分自身の口から漏れた呟きに苦笑してしまう。

どうしたのかと不思議そうに見てくるルーシリアに、なんでもないと首を横に振る。

果てしなく続く砂漠の、その真ん中にひっそりと立つ巨大な石造りの城。

正規の手段を使わずにここに来た者は、砂漠の真ん中に放り出されることとなる。

各地に散らばったこの世界を封印する6つの水晶。それを持つ者だけに開かれる道。

その道は、城の最上階にある祭壇へと続いていた。

「さっきの言葉だけど」

数歩分後ろを歩いていたルーシリアの言葉に振り返る。

「ここが聖地かどうかっていうこと」

目的地は最下層。

得た情報に間違いがないのであれば、この城の最下層に彼らの目的としている人物がいるはず

だった。

巨大な城の外側に位置する螺旋階段。

時々各フロアを移動する必要はあるが、それでもゆるやかに続くその階段を二人はずっと降りて

きていた。

いったいどのぐらいの高さの城で、今どこにいて、どこが最下層なのかは分からない。

時々休憩はしているが、それでも疲れ一つ見せないルーシリアを気遣いつつ速度を遅めた矢先の

言葉だった。

「誰が、どういう見方をするかしだいだと思うの」

微笑って答えるルーシリアをただ黙って眺める。

「今のここしか私たちは知らないから、だから聖地かどうか疑ってしまう。

でも、昔は・・・あの男に支配される前のここは、本当に聖地だったのかもしれない」

彼女の視線が、外へと向けられる。

果てしなく広がっている砂漠。他に建物などない、ただ果てしなく砂漠だけが続く。

オアシスのない炎天下。いたるところにある砂地獄。襲い来る魔物の波。

普通の人間であれば、一時間と持たない死の世界。

「かつては町があって、人々が笑って生活をしていて、そして・・・・」

今の景色からは想像しがたい言葉。

けれど、外を見つめるルーシリアの瞳には、幸せに生きる人々の姿が映っているように、少なくとも

アディスにはそう思えた。

「もしくは、『あの人』にとっての、聖地」

『あの人』という言葉に、アディスの表情が思わず曇る。

その反応に、ルーシリアが苦笑を浮かべたのが分かった。

「とにかく、私たちにとっては聖地じゃないけど、だからといってここを聖地じゃないと断言する

ことは出来ないってこと」

「・・・・・」

正直、いつも彼女の考え方には驚かされる。

自分とは違う、普通の人とは何か違う。一つだけの見方ではなく、多くの、いろいろな視点からの

見方ができる。

決め付けてしまうのではなく、理由と可能性を考える。

何が正しいかは分からない。けれど、彼女のその考え方に、アディスは幾度も救われた。

「お前は・・・・」

言いかけた言葉をとめる。

何?というように首をかしげたルーシリアに、しばしの後ため息をつく。

そして、進むべき道へと視線を動かす。

「ゆっくり話している暇はないようだな」

延々と続く螺旋階段の先は、暗くて何があるのかは見えない。

けれど、そこから確かに感じる何かの気配。

ルーシリアもほぼ同時に気づいたのか、その手に杖が召喚される。

「さっきから何回目だったかしら?」

「・・・・・さぁな」

少ない方だとは分かっていた。

ここが最終目的地だとするなら、もっと彼らを襲い来る手があってもいいものだろう。

拍子抜けするぐらいに少ない敵の数。

けれど、それは逆に不安なものを二人に抱かせていた。

待っているのだと。

彼らが、自分の元へ来るのを。

その余裕とさえとれる状況が、逆にアディスを苛立たせていた。

「とにかく、倒さないと進めないのなら・・・・倒すまでだ」

剣を構えて、きっぱりと言い放つ。

後方にいるルーシリアをかばうように立つのは、長年の癖のようなものだ。

だからアディスは知らない。戦っているときの、ルーシリアがどんな表情をしているのか。

どんな思いを抱いているのか。

「敵は5体。アディスが3体で私が2体、かしら?」

ルーシリアの言葉に、ふうっと小さく息を吐いて、迫り来る影を見つめる。

「俺一人でいい。お前の力は、最後まで温存しておけ」






---next---