信じている。

それは、恐らく最強の呪文。

彼女の知っているどの呪文よりも、確かに力を持っているその言葉が聞こえ、そんな余裕はないはず

なのに、酷く暖かい気分になった。

大丈夫だと。

信じているから頑張れ、と。

振り向きはしなくても、常にそう彼女に伝え続けてきてくれた背中。

今も、彼女の無謀な言葉を信じて、彼は戦い続けてくれている。

だから、ルーシリアは答えようと思える。

一緒に戦い、彼のために力を使うことが出来る。

恐らく、自分たちが唯一目の前の男に勝てるもの。

それは・・・・信頼、そして絆。

『全てを、封印せよ』

目を開けて、そして唱える。

たった一言、その言葉を。

 



 

時間が止まったように思えた。

強大な力が、後方で弾けたのを感じると同時に、それはすぐに鎮下する。

けれど、その一瞬が与えた『もの』に気づいたアディス。そして・・・ヴィファーザ。

「まさか・・・・?」

信じられない、と見開かれる瞳。

目の前にあるその表情を見て、この男のこんな顔は始めてみるな、と考える。

「アディス・・・・・!」

「・・・・ああ」

ルーシリアの声。

予想外にしっかりとした声に、分かっていると、頷く。

振り向きはしない。今振り向けば、恐らく自分はルーシリアに駆け寄ろうとしてしまう。

その体を支えようとしてしまうだろうから。

今は、前を見なければいけない。

「決着を、つけよう」

「・・・・決着、か」

剣を構えなおしたアディス。

そんなアディスに、同じく剣を構えるヴィファーザ。

さっきまでと何も状況は変わっていないように思えた。

けれど、確かに違うものがある。

アディスの体力の限界も、ヴィファーザの強さも。

かけたはずの回復魔法は、受けたダメージの分だけ消耗していて。

けれど、確かに違うものがある。

「この一撃で、全てが決まる」

「・・・・・・勝てると、思うのか?」

思う、と。即答はできなかった。けれど、負けることはできないのだ。

最初で、最後のチャンス。

ルーシリアが与えてくれた、自分を信じて与えてくれたそのチャンスを、無駄にはできない。

「勝てるか負けるか・・・・やってみれば、分かるさ」

 

 

攻撃でも、防御でもない。

ルーシリアが最後に使った魔法。

それは、その場に発動している全ての『力』を封じさる魔法。

もちろん、封じることが出来るだけの力が、その魔法を使う使い手にない場合は、効力はなさない。

だから、ルーシリアはクリスタルの力を借りた。

六大元素。世界を構成する力の源。

何にも勝るその力を借りて、ルーシリアはその魔法を完成させた。

この『場所』が持つ力を封じ、ヴィファーザの魔力を封じる。

アディスとヴィファーザの間にある『違い』を完全にゼロへと戻す。

あとは、二人の本来持つ力の戦い。

信じていると、そういってくれたアディス。

きっと、アディスは怒るだろうと、そう思うと自然と笑みがこぼれた。

考えたくはないが、負けたとしても、アディスは頑張ったのだから、それでいいと思う。

世界がどうなるかは分からないけれど、それでもやれることはやったのだ。

どちらにしろ、自分はその結果を見ることもできない。

それが、悲しかった。

体から力が奪われるのを感じる。

それをつなぎとめる手段も力も、もう彼女には残されていない。

立っていることができずに、ぐらりと体が傾くのを感じる。

遅い来るだろう衝撃を覚悟して、目を閉じる。

 

 

 

薄れ行く意識の中。

感じたのは、痛みでも冷たさでもなく、ひどく暖かい『もの』だった。




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