祭りとは、どういうものなのか。

 

 

そんな他愛もないことを自問自答してしまうぐらいには、今の状況に参っているらしいと実感する。

「今俺が置かれている状況って、少なくともその答えにはならないよな」

溜息が出るのも致し方ないだろうと考える。

ただ、祭り見物にきただけのはずだった。

なのに、今このような状況に陥っていることが、どうしても納得がいかなかった。

遠くに聞こえる祭りの喧騒。

にぎやかな雰囲気が、離れたこの場所までも聞こえてくる。

戻りたいと。

にぎやかなイベントごとは好きなので、心底からそう思うのだが。

「だからってこれはないよなぁ」

動きやすい格好で来たのが、せめてもの救いだった。

一応念のため持っていた剣。

使うことがないといいと思っていた彼の願いは、無残にも打ち砕かれていた。

「ていうか、街についてからまだ1時間も経ってないし」

もう一度溜息をつく。

そして、手にしていた剣を、あらためて構える。

「というわけで、俺はとっとと祭りに戻りたい。・・・・邪魔はしないでもらおうか」

 

 

「大丈夫?」

疲労から座り込んでいた彼を、覗き込む顔。

悪意のない表情と、多少は心配してくれていたらしいその口調に、はぁっと息を吐く。

「見てたなら助けろ」

「・・・・面倒くさいもの」

その可愛らしい外見からは想像もつかない、冷たい一言が吐き出される。

満身創痍、というほどではないが、無傷とも言えなかった。

座り込んでいる理由の大半は力の使いすぎなのだが、頬に走っている小さな裂傷と、左腕にも切り傷。

その傷をざっと確認して、そして小さく呪文を唱える。

ふわりと、暗闇に青い光が浮かび上がり、地面に魔方陣が描かれる。

光が強くなるにつれて、徐々に治りだす傷。

ものの数秒で、さっきまであった傷は完全に消え去っていた。

けれど、体に残る疲労感は消えていない。

「精神的なものまでケアできないのか」

「・・・男でしょ?そのぐらい気力でなんとかして」

治してやっただけ感謝しろ、と言いたげな口調に、今度は別の意味で溜息をつく。

とりあえず文句を言い返そうとして顔を上げ、目の前の少女の視線が自分ではなく、彼女の後方へと向けられ

ていることに気づく。

そこには、さっきまで彼が戦っていた『もの』があった。

人間ではない、けれど魔物でもない。

「霊、みたいなもの?」

「近いだろうな」

黒くうごめく影、のような存在だった。

剣で戦っていても、きりつけた感触や手ごたえというものが全くと言っていいほどなかったのを思い出す。

「魔法じゃないと無理だったからな」

剣だけではなく、一応魔法も使える。

ただ本職ではない。それが、今回戦いにてこずった理由だった。

今は、地面に這い蹲るかのように、静かにそこにあるだけ。

「消す?」

「・・・・・放置しておいたら多分復活するぞ」

人間で言うなら気を失っているような状態。

彼に出来るのはそこまでだった。

暗にやれ、と目で伝えてみる。

それに気づいたのか、仕方ないとでも言うように髪を書き上げながら立ち上がる。

「祭り、奢ってね」

「・・・・なんでだ?」

当然のように言う少女に、眉をひそめて答える。

「手伝ってあげるんだから、当然でしょう?」

「・・・・・・」

何かおかしいか?というように首をかしげた少女に、今日何度目かの溜息をつく。

反論してもいい。

けれど、結局彼女に逆らえないのは、惚れた弱みなのだろうと考えて、空を仰いだ。

 

 

「そういえば、今日は抜け出すの大丈夫だったのか?」

買ってあげた棒付き飴を舐めている少女を見下ろす。

「・・・・大丈夫とはいえないけど、お互い様じゃない」

どちらも同じような立場。似たもの同士。

某伯爵家の息子であるセディと、同じく侯爵家の娘であるルーン。

とりあえず、世間一般の目と言うものをかいくぐり、内緒の恋人同士という立場にいる二人。

住んでいる場所から遠く離れたこの街で行われる祭りに来たのは、純粋に見つからずにデートをするため

だったのだが。

見つからないだろうというその考えが、どうやら仇になってしまったらしい。

このあたりは、大陸の中心から離れていて、魔物の出現が大陸内部より多いのだ。

だから、さっきみたいなことは珍しいことではない。

正しかったのかなぁ・・・などと、いろいろと考えていたセディの前に、ずいっと飴が差し出される。

「・・・・甘いのは苦手なんだけど」

「甘くないわよ。そんなに」

彼女と自分の味覚の差だろう、と言いかけて、とりあえずそれを受け取る。

そして、ちょっとだけ舐めてみる。

「・・・・甘い」

口の中に広がる甘みに顔をしかめて、それを彼女へと返す。

おいしいじゃない、とぼやきながらもそれを受け取り、再び舐め始めるルーン。

そんな彼女に、どうしたものかと考えて、口を開く。

「悪かったな」

「・・・・何が?」

「さっきの」

「別にかまわないわよ」

口調も表情も変わらない。

けれど、いい気分はしないだろうと考える。

待ち合わせに30分は遅刻する結果となってしまった。

魔法使いとしての彼女は、彼の戦いの気配を感じ取り、駆けつけてくれたのだろう。

それでも、気づかなければずっと待ちぼうけをくらわせることになっていたのだ。

「奢ってくれるんでしょ?」

「・・・・・」

今度は嫌だとは言わない。いえなかった。

小さく息を吐いた、それを肯定だと知り嬉しそうに微笑むルーン。

そして、その手がセディの腕に回される。

「花火大会には間に合いそうだし、遅れた30分は今から取り戻せばいいでしょ?別に予定が狂ったわけじゃ

ないからいいんじゃない?」

確かにそうなのだが。

この祭りのメインイベントは、町の中央にある大きな噴水の上に上がる花火だ。

それを見るために、多くの人がこの祭りへとやってくる。

だからこそ。

魔物の出現を感知して、それを無視することなどできなかった。

祭りを台無しにしてしまうよりは、自分が退治した方が早いと考えてしまった。

その結果が、これだ。

「珍しく寛容だな」

自分よりも魔物とこの街を優先したと知って、普段なら(半分は冗談で)文句を言ってくるだろうに、

今日はそれがなかった。

しみじみと言ったセディを見上げる。

「・・・・祭りを台無しにしたくなかったんでしょ?」

「そう、だけど」

頷く。

「いくら私でも、人の命を秤にかけて我侭は言わないわよ。それに・・・・」

腕をつかむ手に、力が込められる。

「折角一緒にこれた祭りを、台無しにしたくないって少しは思ってくれたみたいだから」

最終的には、彼女との時間を守ったことに繋がる。

だからいいのだと。

そう微笑むルーンに、そういう考え方もあったかと思いつく。

実際、あの瞬間にどこまで考えていたかは自分でもよく思い出せない。

けれど、全くなかったとはいえないのも事実だ。

「どっちにしろ奢りね。それは変わらないから」

行こう、と腕を引っ張られる。

まぁそれはそれでいいか、と納得させて、置いていかれないようにと足を速めた。

 




 

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夏のお題、という考え方をなくさないと無理でした(笑)
ファンタジーらしからぬお題にした、自業自得なのかもしれませんが。
とりあえず、祭りを楽しむカップル、という視点で書いてみました。
でも魔物も剣も魔法も出てきます。

ね?ファンタジーでしょ?(笑)