「雪が、降るかもしれないな」

灰色の空を眺めて、呟く。

公園のベンチで。穏やかな午後のひとときを、読書をしながら過ごしていた。

珍しく人の気配がないのも、いつも以上に静かに思えるのも。

全てはその前兆なのかもしれないと思う。

「寒くなったなぁ」

はぁっと息を吐き、その息が白いことを確認する。

季節は冬に、確実に近づいているのだろう。

めぐる季節を、その動きを止めることなど誰にもできはしないのだからそれは当然の事象なのだが。

「嫌だよなぁ・・・・」

どうしてもそう思ってしまうのは、彼自身が抱いているトラウマのために他ならない。

忘れることのできない思い出。

それが起こったのも、こんな寒い日だった。

「・・・・レスティア?」

そっと。

思い出に沈み込みそうになった意識が、暖かい空気によって浮上する。

本を持っていた手に、添えられている細い手。

この寒さの中でも冷えていない、ぬくもりが彼の手を包んでいた。

「ああ・・・・悪い」

心配そうに見てくる少女に、大丈夫だよと笑いかける。

嘘は通用しないことは分かっている。けれど、そう答えることしかできなかった。

案の定、少女の顔に困惑を浮かべる。

添えられていた手が、そのまま持ち上げられ。そっと、彼女の頬に当てられる。

「・・・・・」

先ほどよりも、もっと暖かい温もり。それを感じて、小さくだが息を吐く。

「ちょっと、思い出しただけだから大丈夫だ」

笑いながら答え、その手で彼女の髪を撫でる。

目が見えない。言葉を話すこともできない。

自分では歩くこともできず、車椅子の生活を余儀なくさせられている彼女は、それでも彼の思いを敏感に感じ取る。

一番近くで、ずっと彼を見てきたからこそ。

そして、同じ思い出を共有するからこそ。

「寒いのは、あんまり好きじゃないな。やっぱり」

彼女が、そんな状態になってしまったのも、その思い出の中に原因がある。

考えないようにしているのだが、どうしても罪悪感と悔しさが拭えない。

あの時、彼女を守ることのできなかった自分に対して。

困惑が、さらに深められる。

「分かってるよ。気にするなって言うんだろう?」

悪くないのだと。誰もがそういうかもしれない。

「でも、俺は・・・・俺を許せない」

他の誰でもない、自分が。自分を許すことができない。

「だから、ごめん」

こつりと、彼女の肩に顔を当てる。そして、ゆっくり息を吐く。

もやもやとしたものが、胸のうちに渦巻くそれが、寒さによって増幅される。灰色の空も、冷たい風も。

全てが、彼の内を苛む存在と化す。

「・・・・・」

そっと。頭に手がまわされ、よしよしというように撫でられる。

優しく触れてくる手が、その暖かさが、それを消し去ってくれる。

全てを包み込む優しさと暖かさ。

それは彼女がずっと持ち続けているもので、出会った時からそれに救われ続けてきた。

彼女がいてくれたから、ここまで生きてこれたのだと思っていた。それは決して思い込みでもなんでもなく。

でなければ、きっと今ここに自分はいないだろうという確信があった。

「いつか、さ」

風に消えそうな小さな声で呟いたその言葉に、ぴたりと手が止まる。

「また、笑える日がくるかな」

言葉失い、目も見えず。彼女自身は、持っていた力ゆえにそれほど困っていないらしいのだが、それでも。

一緒に笑うことも語らうことも、走り回ることもできない今の状況を。

「できたらいいなと思うんだ。また、あの頃のように」

今も、一緒にいられるだけで幸せなのだが。

それ以上の幸せを望んでしまうのは、許されないことなのだろうか。

「・・・・レスティア?」

頭を撫でていた手が、首に回される。

車椅子から身を乗り出すようにして、抱きついてくるレスティア。

言葉を話すことができない少女は、仕草と態度で、思いを示してくれる。

言いたいことが、それだけで伝わってくるから不思議だった。

「そうだな、きっと大丈夫だよな」

本を閉じて、彼女の身体に手を回して抱きしめる。

冷たくなっている彼女の身体を、今度は温めるように、しっかりと。

 

 

 

多分彼女にも不安がないわけではないのだ。

今のこの状況が、ささやかで穏やかな時間さえも、いつ壊れてしまうか分からない状況で。

それでも弱音を吐いてしまう彼を、いつも励ましてくれる。

その暖かさで包み込んでくれる。

だからこそ、彼は心に誓っていた。

いつか、持てる力の全てを使って、彼女を暗闇から救い上げて見せると。

 

 

冬が終われば春が来るように、信じていれば、きっと。

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?なんでこんな暗いお話?(笑
えーっと、今の精神状態を反映してますね。コレ。
一応こいつらは今考えているお話のキャラクターだったりします。
文章には一切おこしてない想像の中の産物なのですが、気に入っている二人です。

婚約者設定で、様々な不幸に見舞われて彼女はそういう状態。彼は頑張っているというそんな感じ。
それはそれで幸せなんだけどね、周囲と状況が彼らに新たな試練を与えちゃうのよ的な展開が待っているお話です。

というか最近本当に寒いです。底冷えです。早く春が来てほしいような、来てほしくないような・・・。
ありがとうございました。。