そのカードを開いた時、全てが終わり、そして全てが始まった。

 

 

手にしたカードは『塔』のカード。正位置であるそれが意味するのは『崩壊と破滅』。

神の怒りを表した雷が落ち、一瞬にして全てが失われるそのカードを手に、彼女は運命を悟った。

この国の行く末と、そして自身の運命を。

何度占っても、その未来は変わることはない。

「姫様?どうされました?」

褥の中で。カードを広げていた彼女の周りを包む微妙な空気の変化に気づいた女官が声をかけてくる。

その声に、なんでもないと首を横にふり、そしてカードをまとめる。

見られてはいけないのだと。

まだ、知られてはいけないことで。知る必要が無いことだと、そう判断して。

女官が出て行った部屋で、小さく溜息をついて、そして手にしたカードをもう一度並べようとして、やめる。

さっき見てしまったカード。それをまた見るのが怖くて。

もう一度占ったとしても、違う結果が得られることはない。定められた運命を変える力など、誰にもないのだ。

それが分かっていたから。

「・・・・君が、東の占い姫?」

ふと。

それまでなかったはずの気配と声が、彼女のすぐ近くで生じる。

はっと顔を上げると、ベッドの脇。笑みを浮かべて立っている男性が、彼女を見下ろしていた。

真っ青な、晴れ渡った空のような青色の髪と瞳。

めったに外に出ることができない彼女にとって、それは憧れの色。

優しげなその風貌に、助けを呼ぶことも忘れて呆然となる。

「・・・占いの最中だったのか」

彼女が手にしたカードを見て、納得したように頷く男。

そして、ベッドの橋に腰掛けて、そっと彼女が手にしているカードに触れてくる。

びくりと。

思わず震えた体から、布団の上へとカードが零れ落ちる。

「ああ、驚かせるつもりは無かったんだけど」

すまなそうに言いながら、散らばったカードを集める男に、首を傾げる。

何者なのだろうと。

突然現れた人間。

ここに来ることが出来る人間は限られていて、厳重に守られたその守りを突破することは容易なことではない。

しかも、時刻は既に深夜と呼べる時刻。普通の人間であればそろそろ就寝する頃だ。

「・・・君に、会いに来たんだよ」

カードを集め終えた手が、そっと彼女の頬に触れる。

今度は驚かなかった。暖かい手の感触に、不思議と気持ちが落ち着くのが分かった。

さっきまで感じていた恐怖と、見えてしまった運命と。不安や戸惑い。そういったものが全て消え去っていく。

頬に触れている手に、自分の手を重ねると。それがゆっくりと握り返される。

「・・・・・・」

「うん、そうだね」

返された言葉に、驚いて顔を上げて男を見る。

分かるのかと。

「僕には分かるよ。君の声が、聞こえるから」

生まれつき、話す力を彼女は持たない。

過去から未来までを見通す力を持っていた彼女の、その代償のように失われているもの。それが、言葉という力だった。

「なんでって?・・・・そうだなぁ・・・多分、僕は特別だからかな?」

困ったように、けれどどこか当然のように言う男。

普通であれば笑って済ませるところかもしれない。けれど、そのときの彼女には、それがあたかも当然のように思えた。

彼の存在そのものが、特別なように思えたのだ。

「君の見た未来。・・・・・この世界の、崩壊を見たんだろう?」

握られている手に、力がこもる。言葉にはできなくても、思いは十分にそれだけで伝わったらしい。

それを返答ととって、そうかと頷く。

「その未来を、変えるために・・・僕はここに来たんだよ」

「・・・・?」

そっと。彼女の手を持ち上げて、軽く口付ける。

「この世界を、壊すわけにはいかなくてね。そうなるとちょっとね。困ったことになってしまうんだ」

困ったような笑みを浮かべ、そして手を離して、彼女の金色の柔らかな髪に触れる。

占い姫。

この世界で、数少ない予知能力を持つ少女。

王家が管理する神殿の奥深くで、守られるようにして過ごしている少女。

「だから、君にお願いがある」

彼女の手にカードを握らせ、そして、その中から目を閉じて、一枚のカードを引く。

引いたそれをひっくり返し、そしてわずかに微笑む。

「今、僕が引いたカード。これを、君が見た未来として、世界に伝えるんだ。簡単なことだろう?」

彼女の見た未来ではなく、彼が選んだ未来を、この世界の未来とする。

この国のもつ、定められた運命を、彼自身の運命で上塗りするということ。そんなことが可能なのかと。

驚くように見た彼女に、そっとそのカードを手渡す。

「大丈夫。・・・・言っただろう?僕は、特別なんだって」

ぽんぽんっと軽く頭をたたいて、そして立ち上がる男を見上げる。

「僕は、この世界が好きだ。だから滅ぼしたくないというか、破滅させるなんてもってのほかっていうか?」

原因が何なのかは彼女にも分からない。

けれど、確実に近づいているその崩壊の足音を、簡単にとめて見せようとするその男の言葉は、信じがたいもので

あると同時に、信じていいのかもしれないと思わせるものだった。

「もし、僕が運命に勝てたら・・・・そのときは、またきっと会いにくるよ」

何かを言いかけた彼女の唇に指を当てて、微笑いながら言う。

「今度は、ちゃんと僕の未来を占ってくれていいから」

悪戯を思いついたような、楽しそうな笑み。

そして、ふっと。瞬きをした瞬間に、その男性は彼女の前から消えていた。

夢か幻か。

現実だったのかさえもわからなくなるほど、あっけなく消えたその存在に手にしていたカードをそっと見る。

「・・・・!」

それは『死神』のカード。

大きな鎌を手にした骸骨が、死にゆく者の首を狩る。

すべての生命が終わるときには、必ず会うことになる運命的存在。

『終末や死、あるいは失敗』を意味するそのカードは、彼女の見た未来と何も変わらないものだった。

けれど。

彼に渡されたそのカードは、上下逆を向いている。

逆に向けられたカードが意味するもの。それは・・・・『新しいスタート、再生』。

大丈夫なのだと。

きっと、彼なら本当に何とかできるのだろうと、カードをその胸に握りしめて、思った。

 

 

次に彼が来るとき。そのときは、きっとすぐに訪れるだろう。

彼が占ってほしいといった未来。その未来がどんなものなのかはわからない。

けれど、渡されたカードに重ねられていたもう一枚のカードが、彼女に予感させていた。

 

 

彼の未来が、自分の未来と交わる時。そのときも、近いのかもしれなかった。

 

 

 

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何が書きたかったかというと・・・いや、不思議な話?
『地球へ』の影響を受けつつ書きました、はい(笑)
お題を、タロットカードの意味で示してみたんですが、一応ラブストーリーです。
彼が何者かは、私の中では設定が出来上がっていて、むしろ彼女とのその後のシアワセ生活?の方が
メインなんですが・・・。

どこかでお披露目の機会、あるのかな・・・っていうか、なんか、こういうパターン多いな、最近。